体験は最終的にユーザーによって⾏われるため企業内のプロトタイピングでは分からないことも多くあります。そのため早く市場に出してフィードバックを得て改善していく⽅法をとることは有効な手段の一つです。
販売実績だけでなく、何か事故が起きていないか、効率的に使えているか、使⽤⽬的は想定通りかなど、継続的にユーザーからフィードバックを得る仕組みを持ち、体験設計や企画意図とのズレを認識し修正し続けることが究極のプロトタイピング活動と言えます。
機器をIoT化してクラウドサービスと連携させサブスクリプションで費⽤負担をしてもらうソリューション提供モデルは、収益の安定化・平準化というだけでなくユーザーからの情報を得やすくサービスを改善し続ける面でも優れています。市場の中で改善を続けていくためにはビジネスモデルや販売⽅法、契約内容がポイントになる場合もあり、プロトタイピングの視点で考えてみることが重要です。

「良いデザイン」の意味が変わってきている

毎年Good Designの審査を興味深くみています。特にベスト100や⼤賞といったその年のデザインを象徴する製品がここ数年で⼤きく変わってきていると感じます。以前は六本⽊の⽅に⾜を運んでいましたが、いまは審査の内容や各受賞製品の情報をnoteの中で細かく発信してくれているのでありがたいです。

⼤きなトレンドとして感じるのは、社会との関わり⽅、ユーザーや生活者の巻き込み⽅をデザインした製品やサービスに多くのデザイナーが着⽬している点です。

これは製品・サービスが参加型というだけでなく、その開発プロセスに対しても参加型になっている2重構造があり、結果として持続可能で変化・改善のプロセスも内在した壮⼤なシステムデザインになっています。

未来のことは誰にも分かりませんが、持続的にユーザーとの関係によって価値増大していく仕組みに魅力があり、少なくとも理念や夢として壮⼤な想いをもってデザインされていることが現在の製品価値・ブランド価値に大きな意味を持っているようです。

フィードバックが全てのものをプロトタイプにする

⾝近な⼈に物やサービスを提供し感想をもらうことは人類の歴史の中で⻑い間おこなわれてきました。しかし近年の⼤量⽣産・広域販売によって一時期その声が聴けなくなってしまいました。

しかしその後の情報社会によりコミュニケーションが豊かになっていくことで、評判やフィードバックを得られるようになってきました。Amazonや価格.comのレビューなどです。

ソフトウェアが製品機能の主要なものになってきている現在では、カメラや⾃動⾞などでもソフトウェアのアップデートによって短期間での改善をおこなうことができるようになっています。またハードウェアでも3Dプリンターの活⽤や中国・深センでのモノ作りエコシステムを活⽤することで短期間に改善を繰り返すことができるようになってきています。

このようにフィードバック情報と改善アップデートの組み合わせによって、市場に出した製品をプロトタイピングのように考えることができるようになりました。 

プロトタイプと製品の間

パイロットユーザー、実証実験など、製品が⼤量⽣産されて市場にでるまでのあいだ試験的に実際の利⽤環境やユーザーが使ってみる仕組みがありま す。

医薬品などでは「治験」とよばれるプロセスを経ることで認可がおりて⼀般に販売できるようになります。少し⽬的は違いますがそれに近い仕組みをさまざまな製品でも取ることができるように環境が整備されつつあります。

⼤規模なところでは、トヨタが始めた富⼠⼭麓のコネクティッド・シティ構想があります。体験システムのサイズを「City」と捉えリアルシステムとして実装し検証していこうとするものです。

もともと⾃動⾞会社などは、下請けなどの関連企業が周辺にあり〇〇城下町として地域運営と密接に関わっているところが多いのですが、より実験的なシステムプロトタイプとして街を丸ごと作ってしまうのにはちょっと驚いてしまいました。 

社会の価値変化に対応する持続的なデザイン活動

「ロングライフデザイン」という存在があります。単に懐かしさから⼿にとってしまうものから、⻑期に渡り他の製品を圧倒する使い易さや機能性を持っているものまで理由は様々ですが、社会が変化していく中でその意味付けやポジショニングを再定義したり、製品のデザインを微調整することでロングライフを続けることができているのです。

機能性や新しい外観ということだけに着⽬すれば「新製品」を作っていく⽅が良いかもしれませんが、体験設計のように⼈や社会にフィットしていくことで価値を⽣み出すデザイン領域では、市場に製品を出してからも最適化をおこなう持続的なデザイン活動が適していると⾔えます。 ちょっと⾯⽩い事例として「⼈⽣ゲーム」というボードゲームがあります。これは⼈⽣のプロトタイピングとして楽しむことができるもので、社会の価値観に合わせて常に変化してきている製品です。他にもバービー⼈形の体型が社会の価値観によって変わってきていることなどとても重要なことだと思います。